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社団法人日本温泉協会発行の「温泉ONSEN」2012年2月号より

我が国の放射能泉

前田 眞治 (国際医療福祉大学大学院リハビリステーション学分野)

福島原子力発電所の事故以来、放射能に対する国民の関心は高く、放射能泉においてもその例外ではない。温泉ではRn(ラドン)の基準は5.5マッヘ単位(74Bq/ℓ)以上。療養泉は8.25マッヘ単位(111Bq/ℓ)以上とされている。「弱放射能泉」は8.25~50マッヘ単位、「放射能泉」は50マッヘ単位以上とされている。しかし、ラドンの安全基準範囲に関して許容量は決められていない。日本人のラドンによる被爆線量は約0.5mSv(ミリシーベルト)/年で、これは世界平均の1/2である。日本列島は、地質学的に古代岩石層が少ないためラドン濃度が低いとされている。これは、一般人の線量限度は実行線量で1年に1mSvとされていることからも、少ない線量であることがわかる。地下から湧出される温泉には、放射能が含まれることが多い。しかし、放射能泉に多く含まれるラドンは加熱することによって、空気中に放散するために、温泉中に含まれているとすると低温泉のようなものでなければ高濃度のものは存在できないのが特徴で、高温の温泉や加熱をすると、放射能は激減することがわかっている。

さて、我が国の放射能泉としては、鳥取県三朝温泉、山梨県増富温泉などの温泉が代表的なものと思われる。また、秋田県玉川温泉では、ラジウムを含む北投石を産出する。それぞれの放射能泉についてその特徴に触れる。(なおここに掲げる単位はおなじみのシーベルトなどもあるが、マッヘ単位などの表現、ベクレルなどの記載もある。測定した値なのでそのままの単位で記載している。1マッヘ単位=約13.5ベクレル(Bq)=約3.64×10-10キュリー(ci))

1.鳥取県三朝温泉について

鳥取県三朝温泉も我が国で放射能の強い温泉として知られている。1916年(大正5)年に、当時の内務省東京衛生試験所がラドン含量142.14マッヘ単位と報告し、温度の高い温泉の中ではラドン含量が高いと発表され、三朝温泉は放射能泉として一般に知られるようになった。また、放射能の調査が1950年前後から東京大学理学部、岡山大学温泉研究所などで行われ、トロン含量550マッヘ単位と報告し注目を浴びた。1948~1952年頃の比較的古い時代の測定値で、当時の最高値は「ひすいの湯」の489.5マッヘ単位である。なお「ひすいの湯」はその後、水底の土砂をさらったことによって消滅した。なお三朝温泉の化学組織はナトリウムと塩素が主要成分で高温泉が多く、泉質は含放射能-ナトリウム塩化物泉である。三朝温泉のラドン濃度は50マッヘ単位以下の弱放射能泉が圧倒的に多く、また岡山大学温泉研究所および山田共同浴場付近が地域的にラドン濃度が高いといわれているが、55マッヘ単位程度である。

2006年のラドン測定値では温泉水は6.06~35.79マッヘ単位で、1950年頃のラドン濃度に比較して低い値であった。これは、温泉全体として動力揚湯泉が増加したこと、市街地の整備などで、地下の温泉水の流動状況が大きく変化したことなどが関係していると推定されている。このように、三朝温泉の温泉水のラドン濃度は全般的に低濃度化の傾向があり、比較的低濃度のものが多い。三舩(温泉科学1981)によると「三朝温泉の温泉地の外気、一般家庭の空気中のラドン量から気管支粘膜の年間被爆線量は0.14~0.27ミリシーベルト(mSv)と推定され、年間最大許容被爆線量の約1/5に相当する。三朝温泉地に多年生活し、温泉入浴、温泉水飲用を行ってきた住民についての疫学検討からラドンによる障害は認められない」としている。

17p表1

2.山梨県増富温泉について

山梨県増富温泉は強放射能温泉として知られている。この温泉については、1913(大正2)年の、43ヶ所の湧水で最高823マッヘ単位が報告されている。2005年の調査では、不老閣周辺の飲泉場が最も高く485マッヘ単位、入浴に繁用されている岩風呂は放射能泉の基準を僅かに下まわる程度の6.3~9.4マッヘ単位であった。不老閣源泉の岩風呂では、最高9.64マッヘ単位であった。泉質は基本的に、ナトリウム、塩素、炭酸水素、鉄などを含む塩類泉である。空気中のラドン濃度は0.41~26.5ピコキュリー(10-12Ci/ℓ)の範囲であり、玉川や三朝の値に比較するとかなり高い値を示している。

17p写真

3.秋田温泉玉川温泉について

玉川温泉は、我が国で、高温、酸性、湧出量豊富、北投石産出、といった特徴をもつ療養泉として有名である。しかし、源泉(大噴の湯)およびそれを引湯している温泉、大浴場および周辺の大気中ラドンを測定したがラドンはほとんど含まれていない。また、入浴者の湯治に於ける被爆線量についても、放射線障害防止法での一般人の線量限度(250Sv/3ヶ月)よりも遥かに低く、放射線防護の面では問題なかった。

9p表1

4.放射能泉の加温についての注意

放射能泉は、鉱泉分析法指針によると、鉱水1kg中ラドンを30×10-10Ci含む療養泉と定義されている。ラドンはラジウムの壊変により生じ、半減期は3.8235日である。気体のため、簡単に空気中に飛散すると濃度は減少する。そのため、源泉からの揚湯、利用施設までのパイプ輸送、タンクでの貯湯、浴槽での循環濾過等の間に飛散し、特にボイラーなどによる直接加熱を行うとラドンはほとんどなくなる。通常、放射能泉は低温泉が圧倒的に多く高温泉はまれで、高温になるとラドンが飛散する。また、浴槽での循環濾過は放射能泉で行うと、ほとんどのラドンが飛散してしまうので注意が必要である。

5.我が国の放射能泉の安全性

以上のように三朝温泉、増富温泉、玉川温泉の放射能を調査してみると、三朝温泉および玉川温泉については放射能(ラドン濃度)が増富温泉より低かったので、増富温泉について身体への影響を述べることにする。日本放射線科専門医会で作成した放射線Q&A(1995年)によると、増富温泉での療養に際して水中平均濃度を1700ベクレル(Bq/ℓ)(0.459マイクロキューリー:1Bq=2.7×10-11Ci)として、1時間浴室に居て30分間入浴を1日3回1週間繰り返した場合は、外部被爆が約12マイクロシーベルト(μSv),内部被爆が約15μSv、合計27μSv程度とされる。長寿の湯・内風呂(男)浴槽40分、内風呂休憩室(マッサージ機)時計の場所に1時間、脱衣所に20分利用したとすれば、浴槽で0.252μSv,休憩室で1.44μSv,脱衣所で0.66μSv、合計2.352μSvとなる。この状態を1年間続けたとして858.48μSv(0.85848ミリシーベルト)となる。この数値はICRP(国際放射線防護委員会)の一般人の被爆の線量限度1ミリシーベルト(1mSv=1000μSv)にも達していない。
したがって、3つの温泉の中で最も高い放射線量と考えられる増富温泉における通常の利用でも線量限度を越えないものと考えられることから、日本における放射能泉での被爆量は一般人の被爆限度量よりも低く、安全に入浴できると考えられる。

出典:社団法人日本温泉協会発行の「温泉ONSEN」2012年2月号より

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