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森 繁哉、堀内 公子、前田 勇、山村 順次、猪熊 茂子、早坂 信哉、後藤 康彰
厚生労働大臣認定制度が認定する「温泉利用型健康増進施設」とは、厚生労働省が国民の健康づくりを支援する上で必要な運動施設を、設備要件や人的用件等の基準を満たした適切な運動施設を認定する制度で、昭和63年11月「健康増進施設認定規程」(厚生省告示)により創設された制度です。また、医師の指示に基づく認定された施設において温泉療養を行なった場合には、期間及び利用回数等の一定要件を満たせば、施設の利用料金及び施設までの往復の交通費を所得税の医療費控除の対象となるのが特徴です。
上記告示により同じく認定を受ける「連動型健康増進施設」に比べて「温泉利用型健康増進施設」が設備要件や人的用件等の基準が厳しい状況から、認定施設数が伸び悩む状況が続き、この状況を憂慮した「全国温泉振興議員連盟」などの活動に後押しされ、平成13年度より制度の見直しの検討会が開催され、平成15年に、普及型の認定制度「温泉利用プログラム型健康増進施設」が始まりました。
「温泉利用型健康増進施設」と「温泉利用プログラム型健康増進施設」の主な相違を表1に示しました。「温泉利用プログラム型健康増進施設」の要件で特徴的なものは、設備、プログラム、マンパワーです。温泉設備に関しては、「温泉利用型健康増進施設」で必要であった多彩な浴槽から刺激の強いもの(42℃程度の熱めの浴槽)と刺激の弱いもの(体温に近い温度の浴槽)を設置することでよくなり、運動設備は必ずしも施設内に必要ではなくなりました。提供されるプログラムも、施設内の温泉設備とたとえば周辺の自然を活用したウォーキングコース等を組み合わせることでよくなり、マンパワーも専門職でなくても受講できる「温泉浴受講員」の配置が求められるようになったことで、多くの温泉施設(日帰り施設や宿泊施設)が、認定を取得することが容易となっています。医療費控除制度の対象とはなrませんが、平成24年6月現在37施設が認定されるに至っています(温泉利用型健康増進施設は18施設)。
例年日本温泉気候物理医学会から厚生労働省へ温泉療法に関して医療保険の適応について申し入れを行なっているところですが、現時点では、温泉療法・療養の対して医療保険の適応はありません。一方、医療保険の適応はないが、温泉利用型健康増進施設を利用して医師の指示のもとに温泉療養を行うとその利用料や交通費が税制上医療費として認められて、認定申告の際に他の医療機関における支払った医療費と合算して医療費控除の対象となります。すなわち、医療保険として公的な位置づけにはなっていませんが、税制上は温泉療養が医療費として国から認められていることとなり、その意義は非常に大きい。これは温泉療養に関わる多くの先人方の多大なる努力の成果であると言えます。
温泉利用型健康増進施設で温泉療養を、行い医療費控除を受ける場合、医師が利用者に一定の書式の基づく温泉療養を発行し、それに従って温泉療養を行います。一般財団法人日本健康開発財団では毎年温泉療養指示書による温泉療養実施者の件数を調査しています。全国的にみるとこの制度を最も多く利用されていた時期では年間200件以上の利用者が報告されていましたが、年々低下傾向にあり、近年では例年20~30件前後と低迷しています。温泉関連業界にとっては貴重な財産であるにも関わらず、活用されていないことは非常に残念なことです。
このような現状を踏まえて、平成20年に財団法人日本健康開発財団は「健康増進施設(温泉利用型)の現状と今後のあり方に関する研究会」を開催しました。その際、多くの意見が特に温泉利用型健康増進施設の現場担当者から出されました。その中で、「温泉療法医でも医療費控除の制度が知られていない」「温泉療養指示書は医師でも記入が難しい」といった内容が指摘されました。
この結果を踏まえて温泉気候物理医学会、温泉療法医会には研修会等で学会員、温泉療法医に対して温泉利用型健康増進施設制度の周知を図り、その利用についての促進を毎年行ってもらっているところです。また、温泉療養指示書の発行希望者の要望に応えることができるように、温泉療養指示書の記載方法について研修を行ってもらってきました。以前より記載が仔細に渡り、作成に手間がかかり温泉療法医でも記載が難しいと言われてきた現在の温泉療養指示書書式は平成2年3月27日健医健発19号厚生省保健医療局健康増進栄養課長通知によってなされており、勝手に改変することができません。そこで、本研究会の議論の結果を踏まえて、温泉気候物理医学会、温泉療法医会に協力してもらい簡易な書式とした改正案を作成してもらい、平成22年7月には厚生労働省担当課へ提出しました。提出後は残念ながら未だに改定されずに書式のまま経過しています。
一方、このような状況の中、本医療費控除制度の申請数が急速に増加した温泉利用型健康増進施設も存在します。常々施設を利用している会員全員に対して温泉利用型健康増進施設利用による医療控除の周知説明を丁寧に行ったところ、これまでほとんど申請がありませんでしたが、年間20名もの利用者が医療費申請をするに至りました。利用会員の多くはこの医療費控除のことを知らず、施設からの案内で初めてそのような制度を知った者が多かった、とのことです。高齢者では他の医療機関を利用していることも多く、他の医療機関の医療費に温泉利用型健康増進施設の利用料を合算できることで医療費控除を受けられるメリットを享受することとなり、利用者には大変喜ばれたと聞いています。この制度の活用には温泉療養指示書を作成する温泉療法医の協力は必須であり、この事例においても温泉利用型健康増進施設と温泉療法医とスムーズな連携が前提になっています。温泉利用型健康増進施設の利用を推進していくためには特効薬が有るわけではなく、各施設の実情に合わせて、この事例にあるように会員への周知、施設と温泉療法医の連携といった地道な作業を行う必要があると言えます。また各温泉法医側も積極的な関与が望まれるところです。厚生労働省やその他関係学会等外部組織との調節など、業界団体として対応すべきことについては、温泉利用型健康増進施設連絡会の事務局として当財団は引き続き尽力をして参りたいと考えます。
出典:放射能泉の安全に関するガイドブックより