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新潟医学会雑誌別刷 第126巻 第4号より

ラジウム温泉浴が健常成人の血管内皮機能、生理学的検査値および自覚的体感に及ぼす影響

平山 匡男・西田 浩志
新潟薬科大学産官学連携推進センター

渡辺 賢一
新潟薬科大学大学院薬学系研究科臨床薬理学教室

荒木 善紀
風雅の宿長生館、新潟県健康ビジネス協議会

後藤 博
新潟バイオリサーチパーク株式会社、新潟県健康ビジネス協議会

古内 亮・坂口 良子
株式会社ブルボン健康科学研究所

考察

ラジウム温泉に入浴し、入浴中および入浴終了後2時間までの上腕動脈血管内皮機能検査値(FMD%と血管拡張径増加量)、生理学的検査値(血圧、脈拍、体温、体重、体脂肪率)および自覚的体感(快適感、リラックス感、体のすっきり感)を測定し、その変動を比較解析した。その結果、ラジウム温泉することにより、いずれの測定項目においても健康増進に結びつく有意な変動があることが明らかとなった。 上腕動脈血管内皮機能検査における被験者16名の平均値は、FMD%および血管拡張径増加量ともに入浴20分後に有意な上昇がみられ、入浴終了後2時間までの測定でもFMD%は有意な上昇を維持していた。この結果は入浴により血管内皮機能が向上し、その効果が入浴終了後も持続されているものと推察された。更に、被験者を男女のサブグループ別にして平均値を比較すると、入浴中は類似の上昇傾向を認めたが、入浴終了後は男性群と女性群では異なる変動を示した。すなわち、男性群のFMD%および血管拡張径は入浴終了後には減弱していくが、女性群では入浴終了後2時間までFMD%および血管拡張径が有意傾向および有意な上昇を示すという興味ある結果を得た。また、女性群のFMD%および血管拡張径の変動プロファイルは、男性群よりも高値で推移していた(図1A-1およびA-2:男性、細い実線;女性、破線)。この理由の1つに、性差と年齢差が挙げられる。FMD%は、一般に、男性よりも女性が高く、かつ加齢に従って低下する。本試験における男性被験者8名(35~68歳、50±14歳)および女性被験者8名(20~53歳、34歳±13歳)を考慮すると、本試験における女性群が高値を示すことも理解できる。しかし、本試験において入浴終了(湯上り)後にも血管内皮機能の向上が持続される現象が女性群だけに観測されたことは大変興味深いものであり、その理由については今後解明していく必要がある。

生理的検査値(収縮期および拡張期血圧、脈拍、体温、体重、体脂肪率)の平均値の変動は図2に示される。中でも、血圧と脈拍数の関係は興味深い。入浴中(20分間)に、脈拍数は有意に(約16bpm、23.6%)増加したが、この間に収縮期血圧の上昇は認められず、拡張期血圧は有意に低下していた。また、入浴終了後2時間までに脈拍は入浴前の水準に戻ったが、収縮期血圧および拡張期血圧は共に有意な低下が認められた。両者の値を冠血管流量の指標となるBPに換算すると、入浴中では有意な上昇が、入浴終了後2時間には有意な低下が認められ、見かけ上、入浴中では脈拍数、入浴終了後では収縮期血圧の影響が表れた変動プロファイルとなった(図2-B)。この結果は、入浴後の冠血流量は脈拍数のみならず、拡張期血圧も反映されていることを示すものであり、血管内皮機能、すなわちFMD%と血管拡張径の向上が関与していることが推定される。更に、自覚的体調の高まりが血圧を低下させる報告11)もあり、後述の自覚的体感の高まりの相乗的寄与も考えられる。体重および体脂肪率は、入浴中および入浴終了後2時間まで有意な減少を示した。その変動プロファイルを比較すると、体重減少は入浴終了後も継続したが、体脂肪率は入浴終了直後に極小となり、以降ゆっくりと回復した。入浴終了直後に全員がミネラルウォーター(300ml)を等しく摂取しているが、体重・体脂肪の減少と、水分補給および発汗量との関連については今後検討する必要がある。尚、本ラジウム温泉入浴中ににおける収縮期および拡張期血圧、脈拍数、体重、体脂肪率の変動は、筆者らが先に報告したナノミストサウナ使用時の変動と類似した挙動であった12)。

入浴が及ぼす自覚的体感について、3項目(快適感、リラックス感、体のすっきり感)それぞれの平均VAS値は、入浴前(5.1m~5.8cm)、入浴中(10分目、6.9~7.3cm;入浴終了直後、7.1~7.7cm)および入浴終了後(1時間、7.7~8.0cm;2時間7.4~7.7cm)の範囲にあり、入浴中および入浴終了後2時間までにそれぞれの有意な向上が認められた。 また、入浴終了後1時間に極大値がみられ、2時間後も継続していることは、入浴以降の安らぎや癒しの効果を裏付けるものと考えられる。

一方、入浴以外に加温を利用して有益な生体反応を誘導しようとするものに温熱療法がある。がんのハイパーサーミア療法は医療適用にもなっているが、それ以外の入浴や温湿布による効果も研究されてきた。例えば、単回の入浴やサウナ浴により健常者の皮膚血流13)やうっ血性心不全患者の血行力学が改善14)されることが報告されている。後者の研究者らは、心疾患患者に反復温熱療法を施すことによりFMD%3)が向上し、さらにマウスにおいて血管内皮のNOS(nitric oxide synthase)が増幅15)されることを見出している。現在、和温療法として臨床試験にまで進展してきており16)17)、温熱により、血管内皮のNOSが臨床的にも増幅されることが報告18)されている。これらの研究は、温泉入浴における血管内皮機能の変化を血流依存性血管拡張反応(FMD)装置により明確に捉えることが出来る可能性を示しており、事実、本試験においてその一端が実証されたものと考える。

結論

ラジウム温泉浴が及ぼす生理的作用について、上腕動脈血管内皮機能の検査を組み入れて評価した結果、入浴中および入浴後の血流依存性血管拡張反応率(FMD%)と血管拡張径を増加する効果があることを見出し、かつ血圧の低下や自覚的体感も向上させる利点もあることを明らかにした。今後は、反復入浴や被験者の性差・年齢などとの関連性についても明らかにしていくことが必要と考える。

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新潟医学会雑誌別刷 第126巻 第4号(平成24年4月10日発行)
(平成24年1月11日受付)〔特別掲載〕

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